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大阪高等裁判所 昭和61年(ネ)605号 判決

控訴人

大山潔

右訴訟代理人弁護士

高田昇治

控訴人

大川光義

被控訴人

日本住宅金融株式会社

右代表者代表取締役

大藤卓

右訴訟代理人弁護士

太田忠義

柴田龍彦

主文

一  原判決を取り消す。

二  本件訴えを却下する。

三  訴訟費用は第一、二審とも控訴人らの負担とする。

事実

第一  申立て

一  控訴人大山

1  原判決を取り消す。

2  (本案前の申立て)

本件訴えを却下する。

3  (本案の申立て)

被控訴人の請求を棄却する。

4  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

との判決を求める。

二  被控訴人

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人らの負担とする。

との判決を求める。

第二  主張及び証拠関係

次のとおり付加、訂正するほかは原判決事実摘示と同一であるから、これを引用する。

一  原判決事実摘示の補正

1  原判決二枚目表一〇行目の「(一)から(三)」を「(一)ないし(三)」と改める。

2  同三枚目裏四行目の「1から3」を「1ないし3」と改める。

二  当審における控訴人大山の新たな主張

1  却下を求める理由

本件賃貸借契約は、三年の契約期間の経過により昭和六一年四月末日をもつて終了した。右契約期間満了時に控訴人両名間の合意により本件賃貸借契約を更新した事実はなく、仮に更新がなされたとしても、本件建物には昭和五九年一〇月二日付で競売開始決定に基づく差押の登記がなされているから、右の更新をもつて抵当権者である被控訴人に対抗できない。

したがつて、本件訴えは訴えの目的を欠くに至つたから、不適法として却下されるべきである。

2  本件賃貸借契約が抵当権者に損害を及ぼさないことについて

(一) 被控訴人は、本件賃貸借契約において支払われた敷金が高額であると主張するが、控訴人大川が本件建物を二三〇〇万円で購入したこと、本件賃貸借契約締結当時全くの新築建物であつたこと、本件建物が交通至便の地に位置し生活環境がすぐれていること、控訴人大山は長期間にわたり賃借することを希望していたことなどを考慮すると、五〇〇万円の敷金は相当であつて高額とはいえない。

(二) 前記1のとおり本件賃貸借契約は期間が満了し抵当権者に対抗し得なくなつたから、抵当権者に損害を及ぼすことはない。

理由

一本案前の申立てに対する判断

民法三九五条但書に基づく賃貸借契約解除の訴えは、抵当権者に損害を及ぼす賃貸借契約を消滅させる形成の訴えであるから、右の賃貸借契約が既に消滅しているか、あるいはそれが抵当権者に対抗できないものであるときは、右の訴えは訴えの利益を欠くものとして不適法というべきである。

これを本件についてみるに、その方式及び趣旨により公務員が職務上作成したものと認められるから真正な公文書と推定すべき〈証拠〉によれば、本件賃貸借契約の期間は昭和五八年四月三〇日から昭和六一年四月末日までの三年間と定められていたこと、控訴人大川は昭和五八年一月二一日被控訴人に対する金銭債務の担保として本件建物に抵当権を設定し、同日その旨の登記を経由したが、右の抵当権の実行により神戸地方裁判所尼崎支部の昭和五九年一〇月一日付不動産競売開始決定がなされ、同月二日右決定に基づく差押登記がなされたこと、以上の事実が認められ、右認定に反する証拠はない。

右に認定したところによれば、本件賃貸借契約は昭和六一年四月三〇日の経過により消滅したか、仮に契約の更新があつたとしても、抵当権実行による差押の効力を生じた後の更新であるから被控訴人に対抗できないことが明らかである(最高裁昭和三八年八月二七日第三小法廷判決・民集一七巻六号八七一頁参照)。

してみると、本件賃貸借契約の解除を求める訴えは、訴えの利益を欠くものとして不適法というべきである。

二結論

よつて、被控訴人の請求を認容した原判決は前記理由により不相当となつたから、これを取り消したうえ本件訴えを却下することとし、訴訟費用の負担につき民訴法九六条、九三条、九〇条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官石川 恭 裁判官堀口武彦 裁判官小澤義彦)

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